空間デザインは小説の挿絵を描くようなものだと常々思います。もしどのような店舗にしようか悩んでいる場合は、できるだけ具現化した短編小説を書いてみると良いかもしれません。
例えば、30代前半のスーツ姿の男性と20代後半のトートバッグを抱えた女性のカップルがSNSで見つけたワインの種類が豊富で新鮮な魚介類にこだわったカジュアルなイタリアンの店を訪れます。
都心の主要駅から徒歩10分くらいの繁華街から少し離れたエリアにあるその店には、目線の高さに店名の文字だけがスポットライトでぼんやり照らされた看板だけが出ており、木の板でつくられた重厚な扉を開けて店内をのぞくと黒いシャツに黒いサロン姿の店員さんが「いらっしゃいませ。」と穏やかなトーンで出迎える。
すぐ目の前にはL字型のハイカウンター席が並び、その奥には丸いアンティーク調のテーブル席があり、薄暗い裸電球と壁のブラケットライトでぼんやり照らされて彼らを迎え入れる。席につくと、、、
といった風に、その店を舞台にしたストーリーを考えて情景を思い浮かべていくと、自然とレイアウトや素材などのイメージもつくりやすくなります。
TVドラマや映画、漫画やミュージックビデオまで、全てストーリーがあってこその“背景”ですので、空間をイメージするには対象となる人や物語があるべきなんです。
センスだけではなく、しっかりと人に寄り添った設計というものには良いストーリーが描かれている場合がほとんどです。